求められる地域発の連携体制構築
公開日時 2011/01/27 04:00
出血管理めぐり歯科、消化器内科との連携を
抗凝固薬、抗血小板薬を服用している患者への出血管理をめぐり、他診療科との連携の重要性が高まってきている。特に内視鏡手術や抜歯を行う歯科医や、消化器科内科医などと、神経内科医、脳神経外科医、循環器科医との早急な連携体制構築が求められている。
抜歯時にワルファリンの投与を中止したことから、脳梗塞を発症し、死亡に至った――。この症例が報告されたのは1980年代のこと。その後も抜歯後に脳梗塞を発症した症例や、逆に抜歯後に“出血が止まらない”という症例の報告は、2000年代になっても後を絶たない。
日本循環器学会GL
歯科医の間での普及は十分とは言えず
このような状況の中、日本循環器学会など13学会がまとめた「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン」(2004年版を初版として策定。2009年に改訂)では、抜歯時の抗凝固、抗血小板療法のあり方について言及。初版でも「至適治療域にコントロールした上で、ワルファリン内服継続下での施行が望ましい」「抗血小板薬の内服継続下での施行が望ましい」(推奨度:ClassⅡa)と明記されている。
ただ、ガイドライン(GL)の対象が循環器科医であったために、「残念ながら、歯科医の間では十分な普及がみられなかった」(慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科学教室の矢郷香氏)という。
このような中で、日本有病者歯科医療学会、日本口腔外科学会、日本老年歯科医学会により策定されたのが、本企画でも紹介した「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン」だ。歯科医がGLをまとめ、抜歯時の抗血小板療法について言及したことの意義は大きい。今後は、大学病院の歯科口腔外科だけでなく、一般歯科医と他診療科との連携体制構築も求められるところだ。
個々の症例でリスク・ベネフィット勘案を
一方、消化器内視鏡下での抗凝固、抗血小板療法をいかに行うべきかについても、GLが定められている。
日本消化器内視鏡学会リスクマネージメント委員会は、「内視鏡治療時の抗凝固薬、抗血小板薬使用に関する指針」の中で、抗血小板、抗凝固療法下の患者に消化器内視鏡手術の施行に際し、消化管出血を起こす危険性があると指摘。血栓塞栓症の発症リスクが欧米人に比べて低いことなどから、ワルファリンでは手技のリスクにかかわらず中止を求めた。
また、抗血小板薬も手技のリスクにより期間を変更できるとしたものの、アスピリン、クロピドグレルなどチエノピリジン系薬剤の投与を中止することを求めている。
ただ、実際には休薬期間中に、脳梗塞既往例など、脳卒中発症リスクが高い症例が脳梗塞を発症したという事例も報告されているという。米国消化器内視鏡学会は、このような点に配慮し、アスピリンはどのような症例でも投与の継続を推奨。ワルファリン、クロピドグレルなどのチエノピリジン系薬剤も、手技のリスクが低ければ服薬を継続することを推奨している。
出血リスクが大きいか、それとも脳卒中発症リスクが大きいか――。これは、合併症や患者の既往歴など個々の症例に応じて異なるだろう。
そのため、リスクを勘案し、患者に最も合った“ベスト・ストラテジー”を立案することが求められる。消化器内科医が抗血小板療法を行う神経内科医や循環器科医などと膝を突き合わせて、それぞれの立場から議論することも必要だろう。
一方で、この連携体制の構築は大学病院間では行われるケースも増えてきているが、地域レベルで行われているケースはまだ少ないと言える。特に歯科領域をめぐっては、一般歯科医でも抜歯などの手術を行うケースも少なくない。
地域レベルにまで落としこみ、かつここで挙げた歯科、消化器内科だけでなく、眼科や泌尿器科など手術を実施する複数の診療科間の連携体制構築が待たれるところだ。