アテローム血栓症発症 原虫、細菌感染がトリガーとなる可能性も
公開日時 2011/01/27 04:00
頚動脈、大動脈弓、冠状動脈の3カ所に好発部位が限局
亀田総合病院脳神経外科部長
田中美千裕氏に聞く
“全身性疾患”のイメージが強いアテローム血栓症だが、実はその好発部位は、頚動脈、大動脈弓、冠状動脈の3カ所に好発部位が限局される。なぜこの3カ所に好発するのか。機能解剖学的観点からみた見解を亀田総合病院脳神経外科部長の田中美千裕氏に聞いた。
アテローム血栓症は、①頚部内頚動脈の後壁②大動脈弓‐下行大動脈③冠状動脈――の3カ所に集中して形成され、動脈硬化の約90%以上を占めます。頚動脈を例にとってみても、動脈の中で、頚部内頚動脈の起始部という限られた部位に血栓ができやすいのです。
原因はまだ解明されていないのですが、この3カ所には、迷走神経、舌咽神経など脳神経の内臓神経成分である副交感神経が分布しています。さらに、アテローム血栓症のプラーク内を調べると、Helicobacter pylori(ヘリコバクターピロリ)やChlamydia pneumoniae(肺炎クラミジア)、Herpes simplex virus(ヘルペス)などに対する抗体が陽性となるケースが報告されています。これらの原虫や細菌は、栄養や酸素に富んだ、神経細胞の軸策を取り囲んでいるミエリン(髄鞘)に好んで寄生します(神経好性)。
つまり、これらの原虫、バクテリア、ウイルス感染がトリガーとなり、引き起こされた局所の炎症がアテローム血栓症の原因の1つとなるのではないかと考えることもできます。
抗血小板薬の効果発現 抗炎症効果も鍵に
そのため、炎症の抑制こそが、アテローム血栓症の発症抑制に効果を示すのではないかとの考えもあります。スタチンには抗炎症効果があるとされています。抗血小板薬でもアスピリンに抗炎症効果があることや、クロピドグレルで高感度CRP(hsCRP)の低下作用などが報告されています。抗血小板薬の効果発現では、急性期には抗血小板作用が重要ですが、長期的には抗炎症効果も重要ではないかと思います。
これまでの臨床試験は、なぜ動脈硬化が起こるか解剖学的な仕組みを考慮せずに、心血管イベントの発症率のみ注目してきました。もちろん、心血管イベントを抑制することは非常に重要であり、意味のあることです。しかし、今後は、機能解剖学的な観点から、なぜ抗血小板薬が効果を示すのか、ということをディスカッションしていく機運が高まればと思います。
病因や発生機序に基づいた内科的治療の確立に期待
近未来は、頚動脈疾患に対する機能解剖学や遺伝子解析により、病因や発生機序が解明され、それに基づいたより効果の高い薬物療法が行われることに期待しています。
抗血小板療法とスタチンによる強力な脂質低下療法を行うことで、血管の肥厚を改善するとのデータもすでにあります。今後は、原虫、細菌への感染をアテローム血栓症の原因の1つと捉えて原因菌を特定し、除菌+1次予防(スタチンなど脂質低下療法)+2次予防(抗血小板療法)を組み合わせた強力な内科的治療が実現すればと思います。
同様に炎症性疾患である胃潰瘍は、除菌により、外科的切除を行わなくても効果を示すことが可能になってきています。アテローム血栓症の治療も内科的治療の効果が向上することで、頚動脈内膜剥離術(CEA)やステント留置術(CAS)を実施しなくてもすむ時代がくることに期待したいですね。
写真:佐藤 修司