高リスクの心筋梗塞後患者に対し、通常治療に加え、降圧薬のアリスキレンを上乗せしても、上乗せしない群と比べ、左室心機能の改善が見られず、追加投与の意義が見いだせないことが分かった。米国心臓学会議(ACC.10)で3月16日に開かれたLate-Breaking Clinical Trialsで、Brigham and Women’s HospitalのScott D.Solomon氏が「ASPIRE」試験の結果を報告する中で明らかにした。(3月16日 米国・アトランタ発 望月 英梨)
試験は、高リスクの心筋梗塞後患者における、通常の降圧療法にアリスキレンを追加投与することで左室リモデリングを改善することができるか、有効性を評価するのが目的。日本を除く23カ国で国際多施設共同試験として、実施された。心筋梗塞後の治療法が進歩する中で、心疾患の罹患率や死亡率が依然として高いことから、新たな治療法が望まれていた。
対象は、7~42日間以内に左室収縮不全(左室駆出率(LVEF)≦45%)と関連した急性心筋梗塞を発症した人820人。ACE阻害薬またはARBを含めた通常治療に、▽プラセボ群397人▽アリスキレン群423人――を上乗せし、治療効果を比較した。主要評価項目は、左室収縮終末期容積(LVESV)の変化。解析対象は、プラセボ群は329人、アリスキレン群343人。なお、併用薬としてACE阻害薬を用いていたのがプラセボ群で91%、アリスキレン群で89%。ARBはプラセボ群で9%、アリスキレン群で10%だった。また、ベースライン時にLVESV、左室拡張末期容積(LVEDV)が有意にアリスキレン群で低かった。
その結果、主要評価項目のLVESVはプラセボ群で84.4mlから80.9ml(-3.5ml)、アリスキレン群で82.4mlから78.0ml(-4.4ml)減少し、変化量は2群間に有意差はみられなかった(ハザード比:0.90(95%CI:-1.6~3.4)、P値=0.44)。そのほか、LVEDV、LVEF、梗塞サイズ、駆出率が6%以上低下した症例数についても2群間に有意差はみられなかった。
ただ、副次評価項目の1つである複合心血管イベント(心血管死+心不全による入院+心筋梗塞の再発、脳卒中、再環流、突然死)は、プラセボ群で34例(8.6%)だったのに対し、アリスキレン群では39例(9.2%)で、有意差はないものの(P値=0.98)、アリスキレン群で増加する傾向がみられた。総死亡もプラセボ群8例(2%)に対し、アリスキレン群17例(4%)で、増加傾向がみられた(ハザード比:1.83(95%CI:0.79~4.3)、P値=0.16)。
一方、安全性については、重篤な事象はプラセボ群で92例(23.2%)だったのに対し、アリスキレン群では107例(25.4%)で、アリスキレン群で増加した。特に、高カリウム血症については、プラセボ群5例(1.3%)に対し、アリスキレン群22例(5.2%)で有意に増加する傾向となった(P値=0.001)。
結果を報告したSolomon氏は、アリスキレンの追加投与は「心室リモデリングの観点からプラセボ群と比べ、ベネフィットが得られなかった」と結論づけた。ASPIRE試験は、サロゲートマーカー(代理指標)を用いて実施され、心血管死などのハードエンドポイントを見ていなかったが、これらの試験結果は「高リスク心筋梗塞後患者に対し、アリスキレンを用いて罹患率と死亡率への影響を検討する試験を行うことを支持するデータを提供できなかった」との見解を示した。なお、アリスキレンは現在、心不全や糖尿病性腎症などの臨床試験が進行中。