僧帽弁置換術、弁形成術後の患者では、無症候性脳梗塞を発症するリスクが8%であることが分かった。また、無症候性脳梗塞患者では、そうでない患者に比べ、高次脳機能障害を発症しやすい傾向であることが示唆された。帝京大心臓血管外科の下川智樹氏が3月5日のLate Breaking Clinical Trialsで、「JaSWAT-2」試験の結果として報告した。
試験は、僧帽弁置換術、弁形成術後の患者において、最適な抗凝固療法を実施下で、無症候性脳梗塞の発症と、高次脳機能の変化を前向きに検討することを目的に、全国11施設で実施された。対象は、機械弁(二葉弁)による僧帽弁置換術、僧帽弁形成術を受ける予定の40~75歳の患者。症候性の脳血管障害の既往がある患者などは除外した。術前1カ月、術後2~5週、6カ月後、12カ月後、24カ月後に頭部MRIや高次脳機能検査を実施した。24カ月以降は、脳梗塞やTIAなどイベントの発症を追跡した。解析対象は153例で、高次脳機能検査は149例、MRIは145例で実施されている。
平均2年間経過観察した結果、MRI検査により12症例に無症候性脳梗塞が発症していることが分かった(ハザード比:0.92、95%CI:0.86~0,96)。心房細動の有無に分けてみると、心房細動患者ではより無症候性脳梗塞を発症しやすい傾向であることが分かり、至適な高凝固療法を実施することの重要性も示唆された。
また、僧帽弁形成術を受けた患者と機械弁による僧帽弁置換術を受けた患者に分けて、無症候性脳梗塞の発症率をみると、機械弁による僧帽弁置換術を受けた患者で発症しやすい傾向がみられた。
◎下川氏「患者背景やリスク因子が影響している可能性」
高次脳機能検査として、言語性記憶性検査も実施。この検査は、「たいこ」「カーテン」など15語の単語を読み聞かせ、できるだけ多く思い出してもらうというもの。
このテストを5回繰り返した結果、無症候性脳梗塞を発症した症例は、発症していない症例に比べて術前から術後まで一貫して成績が低い結果となった。この傾向は、別の15語を覚えてもらうテストを間に挟むとさらに顕著になった。
下川氏は、この理由として「患者背景やリスク因子が影響している可能性が考えられる」との考えを表明。今後は、高次脳機能検査や頭部MRIにおける白質病変の変化なども踏まえて、さらに詳細な検討を行う予定とした。