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【日本造血細胞移植学会総会】血清カリウム値のモニタリングと患者に合わせた補充により低カリウム血症を回避

公開日時 2012/04/03 13:45

前氏(右)・大井氏(左)臍帯血移植を施行した成人血液悪性腫瘍患者 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第34回日本造血細胞移植学会総会
2012年2月24~25日 大阪国際会議場

 

 

東京大学医科学研究所附属病院薬剤部の前浩史氏と血液腫瘍内科の大井淳氏らは、臍帯血移植(CBT)を施行した成人血液悪性腫瘍患者に、抗真菌薬アムホテリシンBリポソーム製剤(製品名:アムビゾーム、以下L-AMB)を早期に投与することで、腎機能障害や低カリウム血症などの重篤な有害事象はみられず、真菌感染症の制御に有効であったとの報告を、2月24~25日に開かれた第34回日本造血細胞移植学会総会(大阪国際会議場)のポスターセッションで発表した。

 

 

 

 

 

好中球の減少が遷延するCBTは、移植後の感染管理が難しく、移植後早期における感染対策の取り組みが重要となる。東京大学医科学研究所附属病院では、真菌感染症が疑われる場合には、抗真菌薬のひとつであるL-AMBを積極的に使用しているが、一般的に腎機能障害や低カリウム血症が問題となるケースが多いことから、前氏、大井氏らは、成人のCBT患者でのL-AMB投与症例に関するレトロスペクティブ調査を行った。
 

対象は04年4月から11年12月までの7年半で、同院で骨髄破壊的前処置後にCBTを施行した成人血液悪性腫瘍患者106人(主な原疾患は、AML:急性骨髄性白血病が43例、ALL:急性リンパ性白血病が24例、MDS:骨髄異形成症候群が17例、MDS/AMLが10例など)。
 

今回の調査はL-AMBを投与した群20例と、他の抗真菌薬を投与したL-AMB非投与群86例の2群に分け、前処置開始から移植後100日までにおける有効性、および腎機能や血清カリウム値等からみた安全性を評価した。患者の年齢は39.6±9.7歳で、L-AMB群は40.3±10.5歳、L-AMB非投与群39.4±9.6歳であった。
 

L-AMB群は20症例中17例で他の抗真菌薬の投与歴(ボリコナゾール:12例、ミカファンギン:4例、フルコナゾール:1例)があったが、その多くの症例に発熱炎症所見がみられるか、アスペルギルス抗原陽性が確認されたため、L-AMBに切り替えられた。また、3例は前処置開始前よりL-AMBを使用されていた。

 

 

 

 

 

発熱やCRP値の上昇時には早期に抗菌薬や抗真菌薬を変更

 

 

表1移植後における感染症の指標となる発熱炎症所見(38℃以上の発熱とCRP≧10mg/dLが同時に見られた場合)のあった症例は、L-AMB群6例(30%)、L-AMB非投与群27例(31%)であった。また、真菌感染症やその他の合併症による死亡例は、L-AMB群では全く認められなかった(表1参照)。(L-AMB非投与群は6例)
 

前氏は、「L-AMB投与群では全例生存しており、L-AMBの早期の投与開始により真菌感染症をしっかり制御することができた」と評価。大井氏は「CBTはもともと感染症の発症リスクが高いため、いかに感染を管理するかが重要。今回の調査症例では抗真菌薬としてL-AMBを投与したが、発熱や炎症反応の指標であるCRP値が上昇した際に、感染症を制御するため早期にL-AMBが使われていたことがポイント」との見解を示した。
 

感染制御を目的とする薬物療法では、一般的に38℃以上の発熱が続き、CRP値が上昇した際に抗菌薬を変えることが多いとされる。大井氏によると、「早い段階で薬剤の変更を考慮することが重要であり、当院では移植の前処置が始まった段階で、CRP値が軽度に上昇した場合に抗菌薬を変更したり、移植後に発熱、CRP値の上昇がみられた場合には抗菌薬の変更に加え、早めに抗真菌薬も変更することがある」とした。

 

 

 

 

 

厳密な血清カリウム値のモニタリングと適正な補充

 

 

表2一方、安全性に関しては、血清クレアチニン(sCr)値がいずれのポイントでもL-AMB群とL-AMB非投与群で大きく差はなく、L-AMBによる腎機能への影響は認められなかった。急性腎障害(AKI=各10日平均の血清クレアチニン値が移植前値から2倍以上に上昇した場合)の発症率は、L-AMB群で1例(5%)であった。
 

カリウムの投与量は、L-AMB非投与群29.3mEq/日に対しL-AMB群は44.1mEq/日と多かったが、厳密なカリウム値のモニタリングと早期からの適切なカリウムの補充により、L-AMB群で低カリウム血症(カリウムが3.0mEq/Lを下回る場合)を回避できることが示唆された。L-AMB投与群20例におけるカリウム投与量の推移では、移植後11〜20日後でもっとも多く50〜60mEq/Lであった。また低カリウム血症の発症期間も短期間で、安全に投与することができた(表2図1参照)。L-AMB投与後の低カリウム血症10例は、いずれも背景としてカリウム値がもともと低い患者であり、投与開始後10~14日周辺に見られる傾向があったが、発症率、期間、重症度のいずれをみても、臨床的に大きな問題にはならなかった。
 

図1ここでポイントとなるのは血清カリウム値のモニタリングと補充方法である。同院では、血液検査を毎日実施し、患者の体内に入るカリウムの量と出ていく量を計算し、不足分を補うという個々の患者に合わせた方法を行っている。そのタイミングとしては、血清カリウム値が3.0mEq/Lを下回る、あるいは3.0mEq/L台の前半でも補充する。L-AMB群での点滴中の補液のカリウム量は約30mEqで、補充のカリウム量の平均は15〜20mEq/日だった。
 

これらの結果を踏まえ、前氏は、「L-AMBを使用した患者では急性腎障害や腎機能の悪化の影響はなかった。また、血清カリウム値の厳密なモニタリングや患者に合わせた補充によって、低カリウム血症が回避でき、なおかつ発症期間も短く、安全にL-AMBを投与できた」と述べた。

 

 


 

 

東京大学医科学研究所附属病院(血液腫瘍内科)
大井 淳 氏に聞く

 

 

大井氏真菌感染症が疑われるときには、積極的にL-AMBを使うというのが当院の方針でもあり、感染管理の点でも重要です。L-AMBを使用する際、一般的に問題となるのは腎機能障害や低カリウム血症ですが、今回報告した症例では問題ありませんでした。特に低カリウム血症を防ぐためには、毎日血清カリウム値をチェックし、必要に応じて適切なカリウム補充を実施することが安全性上、重要になりますが、当院でも血清カリウム値が3.0mEq/Lを下回る、もしくは3.0mEq/L台前半に補充した結果、臨床上大きな問題は起きていません。
 

有効性という観点でみると、L-AMBを使った患者さんで、真菌感染症やその他の合併症で亡くなった人はいませんでした。一般的にいわれる臍帯血移植時の真菌関連死の頻度に比べ低く抑えられており、これは他の施設よりも感染管理に積極的に取り組んでいる成果ではないかと思います。発熱や、炎症反応の指標であるCRP値が軽度に上昇した段階で早目にL-AMBの使用を考慮することがポイントです。
 

 

 

 

 

 

 

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