脳梗塞、心筋梗塞、末梢動脈疾患の管理で最近注目の疾患概念とは?
公開日時 2011/09/27 04:00
脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患(PAD)など、動脈硬化を基盤とした病態を包括した新たな疾患概念として、注目を集める“ATIS(=AtheroThrombosIS、エイティス)”。これまで独立して扱われてきた疾患を、改めて1つの病態を基盤とした全身性疾患として定義付けた。例えば、脳梗塞の既往がある患者では、脳梗塞だけでなく、心筋梗塞、PADの発症リスクが高いなど、別の虚血性疾患を発症するリスクが高いことも知られている。疾患概念の浸透により、抗血小板療法を含めた適切な全身管理が広く普及することが期待されている。
日本を含めた国際大規模観察研究「REACH Registry(Reduction of Atherothrombosis for Continued Health)」では、登録されたアテローム血栓症の既往がある日本人患者の1年間のイベント発症率を検討している。それによると、冠動脈疾患患者(CAD、2252例)、脳血管障害患者(CVD、1962例)、末梢動脈疾患患者(PAD、603例)のいずれの患者群でも非致死性脳卒中の発生率が最も高い。
CVD群では、心血管死が0.97%、非致死性心筋梗塞が0.46%に対し、非致死性脳卒中が2.60%となっている。同様に、CAD群では、心血管死が0.58%、非致死性心筋梗塞が0.84%、非致死性脳卒中が1.15%。PAD群では、心血管死が0.66%、非致死性心筋梗塞が0.66%、非致死性脳卒中が2.32%で、必ずしも再発リスクが高いだけでなく、全身の動脈硬化発症リスクが高いことが分かる(図1)。
帝京大学医学部付属病院内科(循環器科)教授の一色高明氏は、7月8日に開かれたサノフィ・アベンティス主催のメディアラウンドテーブル「ATISの概念からみた冠動脈疾患~心筋梗塞・狭心症を全身性の血管疾患として考える~」で、REACH Registryの結果を紹介。循環器内科医の立場から、循環器疾患の既往がある患者では、1年以内に他の虚血性疾患を発症するリスクが高いと指摘した。その上で、「CADの既往がなくても、CVAやPADがあれば二次予防に近似させた管理をすべき」と述べ、積極的な抗血小板療法の重要性を強調した。
◎ATIS 進む専門医での浸透 一般臨床医への疾患啓発がカギに
このような中にあって、全身管理の必要性を広く啓発することの重要性も増してきている。医師限定コミュニティサイト「MedPeer」で臨床医を対象に、疾患啓発に、これまで用いられてきた“アテローム血栓症”と“ATIS”どちらが適した言葉かたずねたところ、「アテローム血栓症」と回答した医師は85%で、今後さらにATISという言葉の普及が期待される。調査期間は、2011年8月17~30日まで。回答した医師は2589人。内訳は、勤務医1674人、開業医355人。
一方で、脳神経外科では59%(46人/78人)、神経内科では43%(55人/127人)、循環器科では29%(59人/205人)で、ATISにかかわる専門医では疾患概念が浸透していることも分かった(図2)。実際、「ATISという言葉に馴染んできた」(40代・循環器内科)、「ATISの呼称で研究会等では認識されていると思う」(50代・脳神経外科)、「全身疾患としての概念ですので統括的な研究が必要とされると思う」(40代・脳神経外科)などの自由回答も寄せられている。今後は、一般臨床医への疾患啓発も重要になりそうだ。
全身管理の根幹をなす抗血小板療法については、「年齢、主要血管狭窄の有無等を考えた上で使い分けている」(50代・脳神経外科)、「血管のサイズなどにより、使用方法やアプローチなども違ってくるため、治療方針はカテゴライズする必要がある」(30代・脳神経外科)などの回答もあがった。