変わる慢性胃炎の診療 ピロリ感染胃炎と機能性ディスペプシアに大別へ
公開日時 2013/03/21 04:02
国立国際医療研究センター国府台病院の上村直実院長は3月18日、「ピロリ菌除菌、胃炎への保険適用拡大の意義」をテーマにしたマスコミ向けセミナーで講演し、これまで慢性胃炎という1つの保険病名で括られてきたヘリコバクター・ピロリ感染胃炎や症候性胃炎である機能性ディスペプシア(FD)について、今後はそれぞれに保険病名がつき、別の疾患として診断・治療が行われていくとの見解を示した。これは、国際基準に追いつくことを意味し、疾患概念の正しい理解や、より適切な医療が提供されることになる。
PPIと抗菌剤2剤によるピロリ菌除菌療法の保険適用は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍など5疾患に限定されていたが、先月、ピロリ感染胃炎にも適用された。これにより、除菌療法の実施数が大幅に増加することが見込まれている。上村院長は、「将来的に新規胃がん患者数の減少、および胃がんによる死亡数の減少に貢献していくだろう」と期待感を示した。それに加え、「慢性胃炎の診断・治療が大きく変わる転機」として背景を説明した。
臨床現場では現在、▽内視鏡検査で有所見▽組織学的にピロリ感染を確認▽内視鏡では無所見であるものの胃痛や胃もたれなど有症状が持続▽その他検査や治療のために病名が必要な場合――と4つに大別される状態のすべてが慢性胃炎と診断されている。「全くサイエンティフィックでないが、保険上そうなっていた」(上村院長)というわけで、適切な治療が行われていたかどうかまで確認できない状態だった。
一方、国際的には国際病名分類(ICD10)で病態に沿った分類がなされており、ピロリ感染胃炎、FDも分類されている。日本ではようやく保険病名として「ピロリ感染胃炎」が適用されたところで、今夏にはFDを適応症とする新薬が登場し、国際基準に追いつく見込みだ。講演では具体的な新薬の説明はなかったが、先月の薬食審医薬品第一部会で「FDにおける食後膨満感、上腹部膨満感、早期満腹感」を効能効果とするアコファイド錠(一般名:アコチアミド塩酸塩水和物)の承認が了承されている。
ピロリ感染胃炎やFDといった新規保険病名の登場を受けて想定される今後の胃炎の診療形態について、上村院長は「有症状で外来受診する患者に対して、内視鏡検査およびピロリ感染の判定が行われる。ピロリ感染胃炎であれば除菌治療が行われ、陰性であればFDとして治療される。除菌療法実施後に症状が発生する場合も、FDとして治療される」と説明した。病態別の治療では検査の重要性が増し、専門的知識も求められてくることから、非専門医の理解の向上とともに病診連携が重要になるとの見方を示した。
◎適用対象拡大のピロリ除菌療法―非専門医で不適切なケースも
上村院長によると、これまで除菌療法は主に専門医によって実施されていたが、一部では非専門医の実地医家も実施しており、治療後に除菌判定をしていないケースや、間違った治療法が行われたケースも散見されているという。今後、実施が拡大する際にそのような不適切な治療が広がることも懸念される。そのため、日本消化器学会や日本ヘリコバクター学会では、非専門医に向けた教育、啓発を喫緊の課題として、啓発ポスターの作成や、一般医家向けのQ&A集の作成を急いでおり、Q&A集は今後、日本消化器学会のHPで発表する予定という。
上村院長は、「非専門医も実施するケースが増えると思われるが、正しく実施してほしい」と強調した。