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【ASCO特別版】EMILIA T-DM1がHER2陽性転移性乳がんのファーストラインでの有効性示す

公開日時 2012/06/05 07:26

HER2 陽性転移性乳がん(mBC)患者のファーストラインとして、抗体薬物複合体(ADC)のtrastuzumab emtansine(T-DM1)がカペシタビン+ラパチニブの併用に比べ、有意に無増悪生存期間(PFS)を延長することが分かった。ただし、全生存期間(OS)は、中央値に達しておらず、解析による有意差を示すに達していない。同剤の無作為化臨床第3相試験「EMILIA」の結果から分かった。6月1日から米国・シカゴで開催されている米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)で6月3日に開かれたPlenary Sessionで、K.L.Blackwell氏が報告した。


T-DM1は、HER2を標的とするヒト化モノクローナル抗体・トラスツズマブと、細胞障害性を有する化学療法剤・DM1を安定性の高いリンカーで結合させたADC。HER2シグナル伝達を阻害し、DM1を直接HER2陽性のがん細胞内部に届けることで、トラスツズマブの腫瘍増殖抑制作用に加え、DM1による腫瘍細胞の微小管重合阻害作用により、抗腫瘍効果を発揮する。


すでに実施されたT-DM1、1群で有用性を検討した2本の臨床第2相試験では、奏効率がそれぞれ25.9%(112例)、34.5%(110例)であることが示されている。また、HER2を標的とした治療を行っていない患者を対象にした臨床第3相試験では、カペシタビン+ラパチニブの併用に比べ、無増悪期間(TTP、中央値)の有意な延長がみられている(8.4カ月 vs4.4カ月、p<0.001)。


試験は、初期治療としてトラスツズマブ およびタキサン 系薬剤を含む化学療法を受けた後に病勢進行が認められたか、6カ月以内の術後補助(アジュバント)療法を受けている991 例のHER2 陽性局所進行または転移性乳がん患者を対象に、T-DM1 単独とカペシタビン+ラパチニブの併用を比較した。


T-DM1群(495例)では、3.6mg/kg を3 週間毎に投与した。一方、カペシタビン+ラパチニブ併用群(496例)では、カペシタビン1000mg/m2 を1 日2 回、14 日間連日投与し、その後の1 週間休薬を含む3 週間を1クールとし、ラパチニブは 1250mg を連日経口投与した。


主要評価項目は、独立委員会の判定によるPFS、OS、安全性。副次評価項目は、治験責任医師判定によるPFS、奏効率、奏効期間、症状までの進行の時間とした。追跡期間(中央値)は、T-DM1群で12.9カ月(0-34)、カペシタビン+ラパチニブ群では12.4カ月(0-35)だった。登録期間は、2009年2月23日~11年10月13日までで、2012年1月14日にデータカットオフを行った。データカットオフは、T-DM1群182例、カペシタビン+ラパチニブの併用で125例だった。


年齢(中央値)は、T-DM1群、カペシタビン+ラパチニブ群ともに53歳、ECOG PSは、T-DM1群で0が61%(289例)、1が39%(194例)、カペシタビン+ラパチニブ群では0が312例64%(312例)、1が36%(176例)、全身療法は両群ともにタキサン系薬剤での既治療例は全例だったほか、アントラサイクリン系薬剤が6割などだった。また、トラスツズマブの既治療も全例で、このうち早期乳がんの治療のみだったのは、両群ともに16%(78例、77例)で、治療期間は1年未満がT-DM1群では42%(210例)で、カペシタビン+ラパチニブ群では43%(212例)だった。トラスツズマブの最終治療からの期間(中央値)は両群ともに1.5カ月間だった。


◎OS 延長傾向示すも早期中止のハザード比は満たさず


その結果、PFSはカペシタビン+ラパチニブ群の6.4カ月(304イベント)に対し、T-DM1群では9.6カ月(265イベント)で有意にT-DM1群で延長した(ハザード比:0.650[95%CI:0.65-0.77]、p<0.0001)。治験責任医師判定のPFSも同様のカーブを描いた。

一方、OSはカペシタビン+ラパチニブ群の23.3カ月(129イベント)に対し、T-DM1群では延長する傾向がみられたが、いまだ中央値に達しておらず、さらなる観察期間の延長が必要とされた(ハザード比0.62、p=0.0005)。早期中止のためのハザード比0.63を超えることができなかった。 1 年生存率は、カペシタビン+ラパチニブ群の77.0%に対し、TDM-1群では84.7%、2 年生存率は、カペシタビン+ラパチニブ群の47.5%に対し、TDM-1群では65.4%だった。


奏効率は、カペシタビン+ラパチニブ群では30.8%(120例/389例)だったのに対し、TDM-1群では43.6%(173例/397例)で、12.7%[95%CI:6.0-19.4]の差がみられ、有意にTDM-1群で良好な結果を示した(p=0.0002)。
奏効期間(中央値)は、カペシタビン+ラパチニブ群の6.5カ月(95%CI:5.5-7.2)に対し、T-DM1群で12.6カ月(8.4-20.8)だった。


患者の申告に基づくQOL 評価である症状悪化までの期間も、カペシタビン+ラパチニブ群の4.6カ月に対し、T-DM1群では7.1カ月で、有意な改善が認められた(ハザード比:0.80[0.67-0.95]、p=0.0121)。


安全性については、有害事象はカペシタビン+ラパチニブ群で97.7%(477例)、T-DM1群では95.9%(470例)に発生し、このうちグレード3 またはそれ以上の有害事象はカペシタビン+ラパチニブ群で57.0%(278例)、T-DM1群で40.8%(200例)だった。死亡は、カペシタビン+ラパチニブ群で1.0%(5例)、T-DM1群で0.2%(1例)だった。
グレード3以上の有害事象で、T-DM1群で多かったのは血小板数減少(Grade3:10.4%、Grade4:2.4% vs Grade4: 0.2%)、肝機能値上昇(AST:4.3%vs0.8%、ALT:2.9%vs1.4%)貧血(Grade3:2.7% vs Grade3:1.6%)だった。一方、カペシタビン+ラパチニブ群では、下痢(20.7% vs 1.6%)、手足症候群(16.4% vs0%)、嘔吐(4.5% vs 0.8%)などが多かった。


これらの結果から、Blackwell氏は「T-DM1は、カペシタビン+ラパチニブに比べ、有効性の改善を示した」とした上で、「T-DM1は、HER2陽性mBCにおいて、重要な治療選択肢となるべき」との見解を示した。


◎Weiner氏「T-DM1は新たな重要な武器」


ディスカッションで登壇したLombardi Comprehensive Cancer CenterのLouis M.Weiner氏は、これまでmBCに対し、限られた治療選択肢しかなかったと指摘。65歳以上の患者も含めたすべてのサブグループで一貫した有効性を示したことなどを挙げ、「T-DM1は、乳がんに立ち向かう治療道具の中で、新たな重要な武器だ」と有用性を強調した。

その上で、今後の研究で、術後補助療法としての有用性などを検討する意義を強調。ノーベル賞を受賞した免疫学者Paul Ehrlich氏を引き合いに出し、「Paul Ehrlich博士の夢だった、特効薬が実現した」と述べ、賛辞を贈った。
なお、ロシュ社とジェネンテック社は同試験の結果を基に、HER2 陽性mBCに対し、T-DM1の適応を欧州医薬品庁(EMA)、米国食品医薬品局(FDA)に今年承認申請を行う予定という。
 

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