Special Report/米国アバスチン乳がん適応撤回のインパクト(下) (1/3)
公開日時 2012/03/06 04:01
米国での現状
◆米国医師の目
抗腫瘍薬諮問委員会の推奨は厳しくも 承認取り消しへの驚きはない
Professor, Section Chief, Section of the Translational Breast Cancer Research, Department of Breast Medical Oncology/
Exec.Dir. of the Morgan Welch Inflammatory Breast Cancer Program and Clinic.
The University of Texas MD Anderson Cancer Center
上野直人氏
FDAが承認を取り消したこと自体には、驚きを感じなかった。FDAが要求していた全生存期間(OS)の改善が達成されなかったことを考えると、承認の基準には一貫性があると感じる。同様の理由で承認取り消しとなった薬剤はベバシズマブだけではない。
承認取り消しに反対する患者団体、患者支援団体もあり、その力の強さと、乳がん患者数が多いことが、問題を大きくしている要因かもしれない。ただ、FDA抗腫瘍薬諮問委員会が12対1という大差で、取り消しを推奨したことは、厳しいと感じた。この裏には、FDA抗腫瘍薬諮問委員の利益相反の問題が潜んでいる。薬剤を理解している人は、製薬企業との利益相反を抱えている為にFDA抗腫瘍薬諮問委員にはなれない、また、利益相反のない人では、ベバシズマブの専門家である可能性が薄い。委員選定における線引きは、今後の抗腫瘍薬諮問における大きな課題だといえるだろう。
◎OSの延長だけでなく有害事象やQOLとのバランスが重要に
新薬の承認基準は、時代によって変化してきている。無増悪生存期間(PFS)の改善による迅速承認も可能になった。研究者の間でも、転移性乳がんを対象に、有意な生存改善を示すのは難しいとの意見もある。OSで有意差が示せない場合は、有害事象やQOLとのバランスが、より重要となる。
PFS、無病生存期間(DFS)だけをみれば、化学療法とベバシズマブの治療成績は、個々の試験でもメタ解析でも、化学療法と比較して有意に良好な結果だ。ただ延長幅は小さく、有害事象が多い。1人の患者への新薬という意味では、臨床試験の段階で、良好なQOLを維持した状態で、最低でも3カ月、6カ月…とPFSの延長が期待できる薬剤が望ましいと感じている。
米国では、迅速承認の後、ベバシズマブは併用薬の縛りなどもなく多用されていた。しかし、私の経験では、やはり効果のある患者とない患者との差が大きく、その予想が臨床的要因だけでは困難である。実臨床は患者背景が試験よりも広くなるわけで、特に新しい作用機序の薬剤について、試験結果を拡大解釈することがあってはならない。今後は予測可能なバイオマーカーの開発が急がれる。
◎トリプルネガティブで腫瘍が大きい患者には処方を考慮
実臨床では、現在ベバシズマブを投与している患者は、投与を続けるべきだと考える。また米国において保険償還されるのであれば、一次治療でタキサンを使う予定の患者に対してベバシズマブを併用することに、個人的には躊躇はない。
転移性乳がんの治療では、QOLを維持しながら、どれだけPFSを延ばせるかが重要になる。そのため、トリプルネガティブの転移腫瘍がある患者などには、処方してもよいのではないかと感じている。保険償還されない場合は、患者負担が大きく、全てが自己負担になると、ベバシズマブを受けることのできる患者は、多くないのではないだろうか。