術後ホルモン（ホルモンアジュバント）療法に、ビスホスフォネート（BP）製剤のゾレドロン酸を追加投与することで、閉経前ホルモン受容体（ER）陽性早期乳がん患者の再発リスク、死亡リスクが有意に低下することが分かった。一方で、今年のサンアントニオ乳がんシンポジウム（SABCS）で報告された複数の臨床試験結果から、BP製剤のベネフィットは、低エストロゲン状態にある患者に限定される可能性も示唆されている。

◎ABCSG-12 　ゾレドロン酸追加投与でDFSイベントリスク28％有意に低下


今回のSABCSでは、術後ホルモン療法にゾレドロン酸を追加投与することの有効性・安全性を検討した「ABCSG-12」の長期成績が報告された。試験は、ゾレドロン酸の多施設オープンラベル臨床第3相試験（P3）として実施。閉経前ER陽性の早期乳がん患者1803例が対象となった。


全例にゴセレリンによる卵巣機能抑制（OFS）＋ホルモン療法（タモキシフェンまたはアナストロゾール）を投与。ゾレドロン酸（６カ月毎１回３年間計7回）併用群899例、非併用群904例の治療効果を比較した。


その結果、併用群では非併用群に比べ、無病生存（DFS）イベントリスク（再発リスク）が28%（HR：0.72、p=0.014]）、全生存（OS）イベントリスクが36%（HR：0.63、p=0.049）で、いずれも有意に低下した。

サブグループ解析では、40歳以上の患者で、DFSイベントリスクが34%（HR=0.66、p=0.013）、OSイベントリスクが44%（HR：0.57、p=0.042）低下した。


一方、40歳未満の患者では、有意な生存ベネフィットは得られなかった。なお、腎不全、顎骨壊死は１例も報告されず、安全性は良好だった。


◎ZO-FAST　DFSは有意に低下もOSは有意差みられず


同じくゾレドロン酸を用いたZO-FAST試験の対象は閉経後患者だ。閉経後ER陽性乳がん患者1065例にホルモン療法（レトロゾール）を投与。ゾレドロン酸同時投与（IMZOL）群では、36カ月時点で無症候性骨折を認めた患者のみに投与した（DZOL）群と比較して、DFSイベントは34%有意に低下した（HR=0.66, p=0.0375）ことが報告された。一方で、OSについては、両群間で有意差が認められなかった（HR=0.69, p=0.196）。ただし、探索的事後解析で、閉経から5年以上（5~16年）経過していた617例に限れば、IMZOL群でOSが50%有意に改善したという。


◎　低エストロゲン状態の患者でベネフィット？


２試験で、ゾレドロン酸追加投与による、OSの有意な延長効果がみられた患者はいずれも、「低エストロゲン状態」にあると考えられる。ABCSG-12では「閉経前だが40歳以上で、OFSとホルモン療法でほぼ完全にエストロゲンが抑制できた患者」、ZO-FASTでは「閉経後5年以上経過し、卵巣からのエストロゲン分泌がなく、アロマターゼ阻害剤で血中エストロゲンも強く抑制できた患者」だ。経口BP製剤を用いた他の2試験の成績でも、低エストロゲン状態にある高齢者に限って、生存ベネフィットが得られる可能性が示唆された。


ABCSG-12は、主要評価項目として生存ベネフィットが示されており、Mayo ClinicのJames Ingle氏は「エビデンスレベルが非常に高い試験だ。閉経前ER陽性患者でOFSとホルモン療法を受ける患者においては、ゾレドロン酸が有用と考えられる」と評価した。


一方で、閉経前ER陽性患者に対するホルモンアジュバント療法の標準療法は現在、タモキシフェン単独とされていることも指摘。OFSを行う意義は、タモキシフェン単独、タモキシフェン＋ゴセレリン、エキセメスタン＋ゴセレリンを比較する「SOFT（the Suppression Ovarian Function Trial）」試験が進行中だ。


乳がん患者の骨転移、骨疾患に対する治療薬として広く用いられているBP製剤だが、今回の知見を根拠とする再発抑制のための実臨床応用には、OFSの意義が明確になることが前提だと考えられる。ベネフィットが得られる患者集団特定に向け、今後さらなる検討が続けられることになりそうだ。