JASAP ジピリダモール+アスピリンのアスピリンへの非劣性示せず
公開日時 2010/05/17 04:03
日本人の脳梗塞再発予防効果において、徐放性ジピリダモール+アスピリンの併用は、アスピリン単剤への非劣性を示せないことが分かった。ただ、懸念されていた併用による出血イベントの有意な増加はみられなかった。東京女子医科大神経内科の内山真一郎教授が4月15日の一般口演で、日本人の脳梗塞再発予防効果を検証した「JASAP(Japanese Aggrenox Stroke prevention vs.Aspirin Programme)」試験の結果を報告する中で明らかにした。
試験は、日本人非心原性脳梗塞患者に対する脳梗塞再発予防効果において、ジピリダモール400mg/日+アスピリン50mg/日の併用(Aggrenox)が、アスピリン単剤に非劣性を示すことを目的に実施された。
すでに欧州では、「ESPS-2」試験や「ESPRIT」試験では、ジピリダモールの併用により、アスピリン単剤を上回る脳梗塞再発抑制効果が報告されており、日本人を対象にした同試験の結果が待たれていた。
対象は、①発症後1週間~6カ月②CT/MRIで責任病巣が確認③年齢50歳以上④少なくとも2つの危険因子を有する(糖尿病、高血圧、喫煙、肥満、血管疾患の既往、末梢臓器障害、高脂血症)――を満たす日本人非心原性脳梗塞患者。心血管イベントの発現率が想定よりも低かったことから、目標症例数は、試験開始時の1000人から、試験途中に1250人に変更された。
①ジピリダモール200mg+アスピリン25mg/日1日2回投与群652人②アスピリン81mg/日1日1回投与群639人――の2群に分け、治療効果を比較した。アスピリン+ジピリダモール併用は、投与開始早期に頭痛を発症し、投与中止に至るケースが多いことなどから、1週間の導入期を設定。低用量から投与をスタートさせ、増量した。投与期間は、52週間以上(最長:124週間)で、試験期間は、2006年6月~09年3月。主要評価項目は、脳梗塞の再発。
◎TIA発症などいずれの副次的評価項目でも併用の意義見出せず
その結果、主要評価項目の脳梗塞の再発は、併用群で45人(6.9%)、アスピリン群では32人(5.0%)にみられた。ハザード比は、1.47(95%CI:0.93~2.31)で、非劣性のマージンである1.37を越え、ジピリダモール+アスピリンはアスピリンへの非劣性を示せなかった。
そのほか、虚血性血管イベントの複合エンドポイントは、併用群では57人(8.7%)、アスピリン群では51例(8.0%)で有意差を示せなかったほか、TIAの発症、急性冠症候群(ACS)の発生などいずれの副次的評価項目でも差は見いだせなかった。
内山氏は、「この発現率の差は、統計学的に有意ではなく、一方の投与群が他方より優れていることを結論付けるものではなかった」と述べた。
◎頭蓋内出血 ジピリダモール併用で増加みられず
一方、安全性については、出血イベントの増加が懸念されていたが、大出血イベントは併用群で26例(4.0%)、アスピリン群では24例(3.8%)で、有意差はみられなかった(P値=0.89)。脳出血は、併用群で12例(1.8%)、アスピリン群で7例(1.1%)。くも膜下出血は、併用群で0例(0%)、アスピリン群で1例(0.2%)で、いずれも2群間に差はみられなかった。
ジピリダモール+アスピリンと、クロピドグレルの効果・安全性を比較した「PRoFESS」試験では、ジピリダモール+アスピリンで頭蓋内出血が有意に多いことが報告されている。
今回の試験結果を頭蓋内出血に絞って事後解析したところ、併用群では13人(2.0%)、アスピリン群では13人(2.0%)。ハザード比は1.04(95%CI:0.48~2.25)で、有意差はみられなかった。
内山氏は、「アスピリンの出血イベントの発症は年間1%とされており、併用により出血リスクが増したということはないようだ」との見解を表明。PRoFESS試験は、アジア人が約3割含まれていたものの、中国人が大多数を占めていたことから、「日本人と中国人と一緒にしてよいのかという問題はある」とし、中国人は日本人よりも出血リスクが低いとの考えを示した。
そのほか、有害事象としては、アスピリン+ジピリダモール群で頭痛や下痢が有意に多く報告されている。
内山氏は、併用群で糖尿病患者が多く含まれていたことなどに触れ、「追加解析で投与群間にベースラインでの脳梗塞再発の危険因子にかかわる患者背景に数値的な偏りがあったことが分かった」と説明し、現在追加解析を実施中であることも報告した。これらのデータについては、10月に開催される世界脳卒中学会(WSC)で公表する予定という。
なお、これらの試験結果を踏まえ、日本ベーリンガーインゲルハイムが開発を進めていたAggrenoxの開発は中止されている。