似たくないのに
公開日時 2012/12/27 04:00
子供が親に似てくるように、部下は上司の行動を見て、それを模倣する。それが、どんな上司であっても…。
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人間関係を嫌って転職する人は多い、商社A社に勤めるKさん(31歳)もそのひとりだ。
「とにかく上司と離れたいんですが、現職ではどうにもなりません。別の営業部署に異動したいと訴えても、私がいるグループは営業成績が良くて、スタッフを動かしたくないようなんです」
Kさんは時折、眉間を人差し指で押さえ、上司のことを考えると頭痛がするとでも言いたげに、転職理由を話し始めた。
「上司の方では、Kさんを気に入っているわけですか?」
「もう5年も一緒にやっているので、扱いやすいということなんでしょうね」
「実績が出ているのに、なかの人間関係がうまくいっていないというのは珍しいことのように思えますが…」
我々の疑問に、Kさんは唐辛子を噛んだような顔をした。
「部下に無理をさせているから、実績が出ているだけです」
「それが、上司の方とうまくいっていない理由ですか?」
転職相談では、上司に悪い感情を持っていても、それをオブラートにくるんで話す方が多いが、Kさんはもはや抑えがたいところまでいっていたようで、我々に対しては、言葉を選ぶという作業を完全に省いていた。
「今の上司には、人間的に尊敬できるところがないんです」
「具体的には?」
「いろいろイヤなところはありますが、何より嫌いなのは上長にこびへつらって、部下にはネガティブなことばかり言うところですね。立場の弱いモノには、ひたすら高圧的なんです」
「しかし、せっかく実績は出ているのですから、仕事と割り切って、しばらく我慢するという選択肢はないのでしょうか?」
転職にはリスクが付きもの。単に「上司が嫌い」というだけで転職するというのは短絡的にも思えたが、Kさんは完全に心を決めていた。
「私もずっと『仕事なんだから、我慢しよう』と思ってきました。けれど最近、他部署の数人に『だんだん上司に似てきた』と言われてきたんです。上司は社内の評価だけは高い人ですから、そう言えば喜ぶと思ったんでしょう。けれど、私にはショックで…。率直に言って、あんなふうにだけはなりたくありません」
こうしてKさんの強い意向で、転職活動が始まることになった。
彼が面接に行くようになると、複数の企業から共通の不採用の理由が聞かれた。それは、「言葉の端々にネガティブさを感じる」というもの。これを知ったKさんは、苦々しげにため息をついた。
「何を言うにも、どこか皮肉っぽいネガティブなところがあるのは、私の上司の特徴なんです。やはり口調が上司に似てきているんですね。早くなんとかしないと」
「 転職理由が『上司から離れたい』というネガティブなものであることも、影響しているように思いますよ。上司のことにとらわれすぎてはいけません。転職のきっかけが何であれ、将来のことをポジティブに考えるようにしなくては」
「そうですね。分かりました」
それからのKさんは、A社(上司)に対する不満より、自分がこれからやりたい仕事にフォーカスして、面接で話をするようになったようなのだが、それでもなかなか内定に恵まれていない。
そして、そのイライラのせいか、数日前になって、こんな話が出て来た。
我々、転職エージェントには、臨時の場合でも時間変更などの対応が迅速にとれるようにアシスタントがついている。応募企業数が増え、面接日程調整が頻繁になったことで、Kさんとアシスタントが連絡をとる機会が増えていた。そして、そのアシスタントから、Kさんに関しての苦情が出てきたのだ。
普段、Kさんは担当エージェントに対しては穏やかで丁寧なのに、アシスタントが相手になると一転、言葉使いがあらくなり、それが高じて怒鳴り散らすことがあったというのだ。
「相手によって、態度を変えるのは、上司の一番嫌いなところだと言っていたのに…」
しかし、そのことをKさんに言ってしまえば、また上司に似てきたと自己嫌悪に陥り、そのことが頭から離れなくなりそうにも思える。仕方なく、アシスタントに我慢してもらって、転職サポートを続けているのだが…。
Kさんが上司の呪縛から解かれる日を、我々も心待ちにしているところなのである。
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