転職者の大企業病
公開日時 2011/03/30 04:00
大企業出身のエキスパートKさん。人もうらやむキャリアの彼にとって、転職でネックになってくることとは…。
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「大企業病」という表現には、さまざまな意味が含まれる。意志決定が遅くなり、スピード対応が出来ないこと。部署ごとの意思疎通がなく、非効率なやり方がまかり通っていることこと。規模が巨大であるがゆえに社員の当事者意識が薄まっていった状態などが一般的だ。
では、組織ではなく個人が大企業病になることはないのだろうか?ここでは、「転職者の大企業病」と言えそうな事例を紹介したい。
Kさん(47歳)は大企業3社を渡り歩いてきた広報・IRのエキスパート。3社目の外資系企業が、実質上の自宅待機と大幅な給与カットを決めたため、1年前から転職に動いていた。
「出来るだけキャリアをいかせるところへ…」
というのが彼の希望だったが、あいにく大手は採用を控えており、この時期にIR強化をしようという企業はほとんどなかった。やむなく、Kさんの応募先は中堅以下の企業が中心となったが、我々のマッチングはなかなか実を結ばなかった。
素晴らしいキャリアを持つKさんなので、スキルが足りないということはない。業界や規模、広報の対象が合わないことはあったが、それも20年以上のキャリアを持つKさんにすれば、さして大きなハードルとは言えなかった。
それでも、Kさんが行きたいと思い、企業もKさんが欲しいとなることがなかったのは、突き詰めて言えば、Kさんの意識にあった。
不動産A社での社長面接でのこと、Kさんは広報・IRについて自らの実績を説明し、それをどのように応募した会社でいかせるかをアピールした。社長が営業畑の出身で、広報などには疎かったため、時折Kさんに基本的な質問を投げかけた。同席していた人事担当者によれば、面接は徐々に先生が生徒に授業をしているような風景になっていったという。
面接後、A社は「能力はあると思うが、社外の顧問のようで、社長の指示のもと動いてくれるイメージがわかない」と、我々に伝えてきた。
別の会社では、専門外の人事や経理について「会社を大きくしていくつもりなら、根本的に方法を変えるべき…」などと話を始め、先方からの不評をかってしまった。
断っておくが、Kさんにお会いした時、我々が鼻持ちならないような印象をうけたということはない。あくまでも常識的な人物で、明らかに礼を失するようなことはないのだが、面接後にあらためて反芻してみると、「上から目線」という評価になってしまうのだった。
Kさんには、アドバイスとして「転職市場では常にお互いが対等の立場です」と繰り返し伝えたものの、効果はあがらなかった。大手企業の本社に長く在籍したKさんにとって、応募先の企業はどうしても格下に思えてしまったのだろう、面接を重ねてもKさんの「大企業病」はなかなか治らなかった。
転職活動をはじめてから1年ほどしたころ、Kさんから連絡が来た。
「知人の紹介である転職が決まりました。これ以上の企業紹介は必要ありませんが、お世話になりました」
という内容だった。転職先の会社は我々が紹介した会社とさして規模・知名度のかわらない中堅メーカーである。どうしてその会社に決めたのかと尋ねると、Kさんはこう言った。
「私が決めたというより、拾ってもらったということですよ。エージェントさんからは、繰り返し『態度を慎め』と言われてきましたが、染みついた悪癖は簡単にはなおらないものですね。自分を戒め続け、1年かけてようやく自然に頭を下げることが出来るようになったのだと思います」
我々は「態度を慎め」というほど、強い言葉を使ったことはなかったのだが、受け取る側としてはそう感じたのだろう。しかし、となると、強く自覚していたにも関わらず、1年も態度を改められなかったということになる。
転職者の大企業病…、決して不治の病ではないが、なかなか厄介なものであるのは間違いなさそうだ。
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