期待と不安のバランス
公開日時 2010/09/14 04:00
転職に向けて不安ばかりを口にするNさん。しかし、ひとつの期待が生まれた時、劇的に状況は変わっていく。
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新しいステージに向かうとき、人はよく「期待と不安が入り交じった」という言葉を使う。「期待と不安」は混在し、そのバランスは常に揺れ動いているものだ。人が転職するとき、そのバランスは大きな影響力を発揮する。
通信会社系列A社で総合職として働くNさん(27歳)は、当初「やりたいことはありません。何か、自分に向いている仕事はあるでしょうか?」と真顔でたずねてくるような転職希望者だった。
選択肢が無数にある時代、明確な目標意識を持っている人は、実は少数派である。社会人経験5年でも、自分のキャリアの方向性について新卒同様の質問が飛んでくることはままあることなのだ。
Nさんは転職先の希望も、矛盾をはらんだものだった。いまのままでは、数年で転勤を繰り返すことになりそうなので、転勤のない会社に転職したいというのだが、一方で規模の大きな会社が好ましいと述べていた。普通、大きな会社ほど、転勤の可能性は大きい。
転勤のない生活と企業規模、いずれをとるのか、Nさんは決めきれずにいた。
転勤のない会社を紹介すると、Nさんは「この会社、将来倒産したりしませんかね?」と不安を口にし、規模の大きな会社では「当面、首都圏営業部にいられそうですけど、5年先は保証できませんよね?」と、自分の行く末を案じるのだ。
「大きな会社も倒産しないわけではありませんし、中小企業でも業績がよくなっていけば、支店や営業所をつくるかも知れません。そうなった時に考えるしかないと思いますよ」
我々は、誰も、何も、未来は予見しえないとNさんに繰り返し伝えたが、彼の転職への不安は、常に期待を上回っているように見えた。
申込を出したセミナーを、「なんとなく」という理由で欠席することもあり、Nさんはこのまま転職活動をフェードアウトさせてしまうかもしれないと思い始めていたのだが、その数日後のレクリエーション情報サービスA社の面接で、風向きは大きく変わることになった。
A社は「事業内容がおもしろそう」とNさんが応募した会社。規模が大きいとは言えないが、ここ数年で業績を伸ばした企業である。
我々は、面接後「良い印象を受けた」という簡潔なメールを送ってきたNさんに電話をしてみた。
「A社はどうでしたか?」
「思った以上に面白そうな会社でした。ただ、仕事内容があやふやで、その点がマイナスですかね」
「1人の社員が色々な仕事を兼務しているようですね。そのあたり、ベンチャー的な雰囲気がかなり残っている会社と聞いています。ただ、転勤の心配はなさそうでしょう?」
「どうかな。社長はかなり発展志向だから、業績がこのままいけば、支社をつくることをためらったりはしないと思いますけど…」
「では、その点もマイナスですか」
「成長が期待できるのは、いいことじゃないですか?」
Nさんが、転勤があるかもしれないことを前向きに捉えているのを聞いて、我々は驚いた。
「A社については、ずいぶん良い方にものごとを見るんですね?」
「エーッ(笑)そういう風に見方を変えろとおっしゃったのは、エージェントさんの方じゃないですか」
持っていた不安がすべて消えたということはなかったろう。特に安定性という意味では、A社には不安なところが多く、その点について、Nさんは事細かに我々に相談をもちかけてきた。だが、Nさんのなかに芽生えた「この会社、面白そう」という期待は、明らかに彼の不安を小さくしていた。
しばらくして、A社への内定・入社が決まった時、Nさんは「期待と不安がごちゃ混ぜという感じです。」と感想を述べていた。お決まりの台詞だが、ずっと不安ばかりを口にしていたNさんだけに、考えさせられるところがあった。
人が転職に踏み切るのは、不安がなくなった時ではない。いや、そもそも不安を完全には消し去るなど不可能だ。
だが、たとえほんの僅かであっても、期待が不安を上まわれば、人は前に進むことができる。
期待と不安のバランスが、今日もどこかで揺れ動いている。
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