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糖尿病患者のLDL-Cは100mg/dLか120mg/dLのどちらが良いか?

公開日時 2010/06/02 04:00

日本動脈硬化学会がまとめた「動脈硬化性疾患予防治療ガイドライン2007年版」では、糖尿病症例を心血管イベントの“高リスク群”に位置付け、一次予防ではLDL-C値が120mg/dL、二次予防では100mg/dLを管理基準とした最も積極的な治療を推奨している。これに対し、米国糖尿病学会(ADA)では今年に入り、一次予防で100mg/dL、二次予防で70mg/dLとするなど、さらなる積極的な治療を推奨する声も臨床現場から挙がってきている。5月28日に開かれたディベートセッション「糖尿病症例に対するLDL-C管理基準値:現行のガイドライン(GL)で良いか?」の内容を紹介する。


◎帝京大・寺本氏 二次予防は今後層別化も検討


現行のGL(一次予防:120mg/dL、二次予防:100mg/dL)を支持する立場(Pros:賛成)から講演した帝京大医学部医学科内科学講座の寺本民生氏は、久山町研究、MEGA、J-LITなど日本人対象の疫学データから、糖尿病患者の心血管イベント発症リスクは、非糖尿病患者の2.5~3倍であると紹介した。高血圧、喫煙、LDL-Cなど他の心血管イベント発症の危険因子も「ほぼ同程度の心血管発症リスク」(寺本氏)だが、現行GLではこれらの中で糖尿病だけが高リスク群に位置付けられている。寺本氏はこの理由について、糖尿病患者では「脂質や血圧のコントロールをきちんと行えば、心血管イベントが抑制されることが分かっているため」と述べ、糖尿病患者における脂質、血圧の積極的な治療の重要性を強調した。


その上で、一次予防の管理基準については、「MEGA study」のデータから、LDL-C値を157mg/dlから128mg/dLに低下させることで、心血管イベントの発症リスクが33%抑制されたことや、疫学研究J-LITでも120mg/dL未満に下げても心血管イベントの発症抑制効果がみられないことを紹介。欧米では、治療目標値100mg/dLとした臨床研究が行われているが、「100mg/dL未満を目指しても、心血管イベントの発症抑制効果は30%程度。基本的には120mg/dLまで下げればある程度の効果が得られるのは間違えない」とした。その上で、「これ(120mg/dL)以上下げると医療経済学的にいかがなものか」と述べ、「日本人の疫学・治療エビデンスに基づけば、現行のGLが妥当」との見解を示した。


一方、二次予防についてはさらなる積極的な治療を支持する姿勢も示し、現行のGLでは二次予防の層別化は行われていないが、「我が国でも層別化した方が良いのではないかという意見で調整しようと思っている」と述べ、今後のGL改訂の方向性も示した。


◎横井氏 PCI施行例の2/3に糖代謝異常


さらなる積極的な治療(一次予防:100mg/dL、二次予防:70mg/dL)を支持する立場(Cons:反対)から講演した小倉記念病院循環器科の横井宏佳氏は、心疾患による死亡率が増加傾向を示している背景に、糖代謝異常(糖尿病、耐糖能異常)患者数の増加があると指摘した。実際、横井氏の施設に訪れた待機的PCI施行患者の約2/3は糖代謝異常があるとのデータを提示し、実臨床でも心疾患患者で糖尿病を合併している人が多いと説明した。


その上で、JDCSのデータから、糖尿病患者における虚血性心疾患発症の最大の危険因子はLDL-Cであると説明し、血糖コントロールだけでなく「厳格な降圧と積極的な脂質低下療法を行うことが重要」との考えを示した。


具体的な管理目標値については、一次予防について「LDL-C100mg/dL以上で心血管リスクは増大するというデータが日本人でもあるのではないか」とし、100mg/dLを妥当とする考えを示した。横井氏は、JDCSのデータについて「LDL-C100mg/dLを越えるとリスクが右肩上がりに増えてくる」とし、同様のデータを示した寺本氏と異なる見方を示した。さらに、心血管イベントの発症リスクとしてLDL-Cの質も大きな影響を与えていると指摘し、この点からも「より厳格に下げるのが望ましい」との考えを示した。


この裏づけとなるエビデンスとして、欧米の臨床研究「CARDS」、「Steno-2」延長試験結果に加え、日本国内で実施された「JAPAN-ACS」のデータを紹介した。横井氏は、JAPAN-ACSのデータから、糖尿病患者では非糖尿病患者に比べ、同じ値までLDL-Cを低下させてもプラークの退縮効果が得づらいと説明した。その上で、糖尿病群ではLDL-Cを下げれば下げるほどプラークの退縮効果が得られ、特にHbA1cが7%以上の患者での効果が大きかったことを紹介。「コントロールが不良な患者ほど積極的な脂質低下療法の意義がある」との見解を示した。


その上で、横井氏は実際の症例を示しながら、「不安定プラークが破裂すると、早期のPCIを行わなければ生命にかかわる」と説明した。発症6時間以降にPCIを行っても心筋梗塞の患者の約8割は助からないとのデータも示し、心筋梗塞を起こさないためにも積極的な治療が必要との考えを表明。「あなたの大切な人が糖尿病だったら、LDL-Cをどこまで管理しますか?」と会場に呼びかけた。


会場の参加者にアンサーパットを用いて、糖尿病症例に対するLDL-C管理基準値が現行のGLで良いか問うたところ、ディベート前はProsが59%、Consが41%。ディベート後は、Prosが36%、Consが64%で、ディベート前の結果を覆した。

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