持ち家率の高い会社
公開日時 2010/04/27 04:01
両親からの干渉を嫌って転居・転職をしたJさん。だが彼は、求人票に書かれてあった1文を見落としていた。
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システムエンジニアJさん(29歳)は転職について、すこし変わった希望を述べた。
「勤務地はどこでもかまいません。むしろ、実家を出る口実が欲しいので、今の住所から離れたところの方がいいんですが」
多くの転職者は、経済的メリットなどから実家を離れたがらない。我々は彼が本当に転居を希望しているのか確認しようと考えた。
「どうして実家を離れたいのですか?いろいろ便利なことも多いでしょう?」
「えー、その、両親と折り合いが悪くて…」
Jさんは困った顔をして言葉を濁した。
この時、もう少し突っ込んで話を聞いておいても良かったのだが、Jさんはいかにもプライベートなことで話したくないという素振りを見せたので、我々は遠慮せざるをえなかった。
あとで分かったことだが、Jさんと彼の両親の仲は、険悪なわけではなかった。
大学院に進んだ彼の妹が海外留学に出てしまい、母親はなにかとJさんの世話を焼きたがるようになり、定年を迎えた父親と一緒に「早く結婚しろ。孫の顔をみせろ」とせっつくようになっていただけだった。端からみれば、微笑ましいくらいの関係である。
ただ、大学時代にひとり暮らしを経験しているJさんは、ひとりの気楽さをよく知っていた。休日のTVゲームという、ささやかなインドアの趣味を邪魔されるのを嫌って家を出ようとしている、これが彼の「転居希望」の実態であった。
Jさんはそれまでのソフト開発会社のエンジニアから、社内SEへの転向を軸に精力的に転職活動を行い、素材メーカーB社で内定をもらった。
B社は郊外都市に本社を構えており、Jさんの実家から通うのはつらいものの、何かあればすぐに帰省することが出来る絶妙なロケーションの会社だった。
「仕事内容はもちろん、ここなら自分の希望通りです」
Jさんはそう言って、晴れやかに転職を決めたのだが、実は彼はA社の求人票に記載されている、ある1文を見落としていた。いや、正確には見ていたのだが、その意味をしっかり把握していなかった。
A社の会社説明には次のような言葉があった。
「地域に溶け込んでいるのが特徴。転勤がなく周辺の土地価格が安いので、社員の持ち家率の非常に高い会社です」
これを読んだJさんは「ふ〜ん。安定した良い会社なんだな」程度にしか思っていなかったのだが…。
転職後、彼はA社社員の持ち家率の高さに本当に驚いた。
知っていたことに驚くというのも変なのだが、A社では、30歳を待たず結婚して家を構える社員が多く、独身のJさんは同年代で完全な少数派だった。30代・40代の独り者が当たり前のように仕事をしていたソフト開発会社とのあまりの違いに、Jさんは完全に面食らってしまった。
「同年代の昼休みの会話は子供のことや、結婚生活のことばかり。週末はほぼ毎週ホームパーティーに呼ばれる。転職したててで、そんなに断ってばかりもいられないので参加するのですが、行くと必然的に話題は『Jさんは結婚まだだっけ?』ってなる。これじゃあ、実家にいる以上にプレッシャーですよ」
独身主義者というわけでもないJさんは、ついに周囲の雰囲気に負けて、今度同僚の知り合いで女性を紹介してもらうのだとか。
「お見合いというほど堅苦しくはないというんですけど、どうなることか…」
ひとり暮らしを謳歌しようと家を出たJさんだが、思わぬ形で親孝行をすることになるのかもしれない。
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