誰にも知られず、ひっそりと
公開日時 2010/03/16 04:05
Oさんは、中堅企業から大手関連会社へ転職をはたした。だが、それを知っている人は数えるほどしかない。
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中堅自動車関連メーカーA社の経理Oさん(32歳)は、家族には内緒で転職活動をしていた。
「同居している両親・弟には転職を知られたくないので、自宅には電話はしないようにお願いします。お恥ずかしい話なのですが、弟がニート状態で、家で仕事の話はタブーになっているんですよ」
Oさんは、仮に転職が決まっても家族に話をしないつもりだと我々に語った。
「出社時間・帰宅時間が大差ないなら、気にすらしないと思いますよ。別に仲が悪いというわけではないですが、不干渉が暗黙のルールなんです」
我々は、
「ご両親だけにこっそり話をされては?Oさんのキャリアなら、今より良い条件になる可能性が高いですし、きっと喜ばれますよ」
と諭したが、Oさんは意に介した様子はなかった。
「いや、転職するって言えば心配しますし、いいところに転職したと知れば、私に依存してくるのが分かってますから」
家族関係は複雑なもの。我々はそれ以上、この話題を持ち出すのをやめたが、Oさんの転職は、その後、奇妙ないきさつをたどった。
Oさんは大手通信会社系列のB社で内定となった。年収が2割近く上がり、福利厚生もよくなる良い条件での転職だった。
OさんはすぐA社に辞表を提出したが、上司はこう泣きついてきた。
「転職者が出ると周囲に波及する可能性がある。責任問題で役員間の力関係にも影響する。社内では出向後の退職という扱いにしたい」
そんな隠し事はどうかと思ったものの、10年近くお世話になった上司の頼みでもあるし、それで円満退社できるならとOさんはこれを了解した。
同僚には4月の人事異動の先倒しと説明、関連会社に出向、有給を消化した2週間後に退職という形をとり、Oさんは送別会もない静かな退職をむかえた。
一方、転職先であるB社人事はOさんの採用に関し、ひとつの条件をつけていた。
今回の採用は経理部門の増員。経費節減で、どの部署もギリギリのスタッフ数で仕事にあたっているなか、経理だけはどうしても仕事が間に合わないという理由で特別に採用されたのだ。
Oさんの採用が知られると、こころよく思わない人達もB社には少なくなかった。
そこでいきなり経理部門配属とはせず、「業務支援」というOさん1人しかいないセクションを仮に置き、そこから4月1日に経理に異動になったという形にすることが入社前に決まっていた。
B社人事いわく「気がついたら、そこにいたという状態が理想」とのこと。Oさんはこれまで存在していなかった幽霊部署に、人知れずひっそり配属されることになった。もちろん、入社式も歓迎会も自己紹介のスピーチもなし。
入社から数日たった日の夕刻、Oさんから我々に連絡があった。
「近くにひとりでいるんですが、もしよかったら飲みにいきませんか」
誰にも知られず、ひっそり転職を果たしたOさん。だが、新たな出発は全ての人にとって祝う価値のあるものだ。
我々はOさんの申し出を快諾し、密やかな成功の祝杯をあげに向かったのだった。
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