第1回 勝ったほうにつきたい
ボクシングを見たことのある人はご存知だろうが、戦う選手にはセコンドという名の介添え役が2人ついている。1人は戦いのコーチ役、つまり作戦監督で、もう一人はトレーナーで、傷の手当てや選手の身体面の状況に気を配る役割を担う。このスポーツを単なる殴り合いにしか見ない人は選手しか見ないが、少しボクシングを高度なスポーツとして認識できる観客は、セコンドの能力を含めた「ゲーム」として試合を味わう。セコンドは米国などでは独立性の強い仕事で、その能力に応じた待遇によって選手を選ぶ。前にケアした選手の敵側選手のセコンドになることだってある。
政治の世界で、与党と野党を選手とみれば、セコンド役はさしずめその支持基盤ということになろうが、自民党・与党の大きな支持基盤として機能してきた医療関係団体の針路があいまいになり始めている。医療界で与党・自民党を支えてきた最大の勢力はいうまでもなく日本医師会だが、衆院総選挙の直近、つまり大きなタイトルマッチが目前に近づいているのに、与党側セコンドとしての戦略やケア方針が決まらない。それどころか、どちらのボクサーのセコンドを務めようか、リングの外でふらふらと迷っている印象すら伝わる。一応、各種の政治的イベントでは自民党を軸にした与党をゲストとして招くという、セコンドとしての所属は与党側というスタンスは崩していないが、実は強力なノウハウを持って堂々と自民党のセコンドに立つ覇気も、勇気も、実力も失いかけている。気分は、次のタイトルマッチでは評論家としてリングサイドで試合を眺め、勝った方のセコンドになろうということに傾いている。
総理大臣の麻生太郎氏は、衆院選初出馬のとき、叔父の故武見太郎・元日医会長の強力な支援を受けた。選挙区の福岡県では、選挙カーが進む沿道を白衣(医師、看護師)が埋め尽くしたといわれるほどだ。
麻生首相に限らず、医師会をバックにするとその集票能力は桁違いといわれた時代がある。それが、前回の武見敬三氏を推した参院選では日医の直接候補を落選させるところまで凋落した。日医が自民党のセコンドを続けるかどうかを迷い始めた今、自民党政権も落城寸前に追い込まれ、その領袖が麻生首相というのも皮肉なめぐり合わせである。