第60回米国心臓病学会議（ACC.11）が米国・ルイジアナ州ニューオリンズで4月2日開幕した。４月3日に開かれた「ACC.11 and i2 summit Scientific Showcase and Late-Breaking Clinical Trials」セッションでは、症候性大動脈弁狭窄症患者に対する径カテーテル大動脈弁置換術（TAVR）の安全性・有効性を検討した「PARTNER」試験の結果が報告され、注目を集めた。（4月3日、米国・ニューオリンズ発　望月英梨）

症候性大動脈弁狭窄症は、手術適応があれば、標準療法として大動脈弁置換術（AVR）が確立している。「PARTNER」は、症候性第動脈狭窄症患者に対して、AVRの実施ができない、または実施がハイリスクな症例を対象に、TAVRの安全性・有効性を検討することを目的に実施された。

手術適応とならない症例（358例）、ハイリスク症例（699例）を対象にした2試験からなり、すでに報告された手術ができない症例を対象にした試験結果からは、TAVRを行うことで、死亡率が減少することが示されている。

今回の解析は、手術が可能だが、重篤な大動脈弁狭窄症であるハイリスク症例を対象に、TAVRのAVRへの安全性・有効性の非劣性を示すことを目的に行われた。米国、カナダ、ドイツの26施設から登録された699例を①TAVR（径カテーテル）治療群348例（大腿動脈穿刺：244例、心尖部穿刺：104例）②AVR（手術）群（大腿動脈穿刺：248例、心尖部穿刺：103例）―の２群に分け、治療効果を比較した。患者は高齢で、NYHAⅢまたはⅣが９割を越えるほか、心房細動の合併率が4割などハイリスク集団となっているのが特徴となっている。主要評価項目は、ITT解析による１年後の総死亡。

その結果、主要評価項目の発生率は、AVR群の26.8％に対し、TAVR群では24.2％で、両群間に有意差はみられず（ハザード比＝0.93[95％CI：0.71～1.22]、P値＝0.62）、非劣性を示した。サブグループ解析では、大腿動脈穿刺でTAVRを行った際のAVRへの非劣性も示された（P値＝0.0002）。30日後の死亡率は、TAVRで3.4％と、これまで報告された中で最も低い値だった。AVRは6.5％で、予想された11.8％を下回った。

◎TAVRとAVR　異なる周術期合併症の発症

周術期の合併症が異なることも示唆された。TAVR群では、30日後、1年後の脳梗塞（3.8％vs2.1％、P値＝0.20）、大血管合併症（11.0％vs3.2％、P値＜0.001）がAVR群に比べ、多く報告された。一方、大出血（9.3％vs19.5％、P値＜0.001）、心房細動の発症（8.6％vs16.0％）は、AVR群で多く報告された。

結果を報告したCraig R.Smith氏は、「TAVRとAVRはいずれも、ハイリスク患者に対する治療として受け入れられる」とした。ただ、周術期の合併症が異なることから「症例に応じた決定が必要」との考えを示した。

TAVRは、すでに手術を行えない重症大動脈弁狭窄症患者に対して標準治療となっており、「特定のハイリスク患者に対してもAVRの代替療法として受け入れられる」と結論付けた。

◎TAVR増加分費用対効果は５万200ドル　

同日のLate-Brealing Clinical Sessionでは、TAVRの費用対効果についての解析結果も報告された。

入院費用（約７万8500ドル）が大きく影響するものの、治療後の入院回数の減少などから、標準治療に比べ、追跡期間ではコストが減少（約２万3000ドル）した。ただし、１年後にはTAVR群は標準治療群に比べ、コストが高い傾向がみられた。

TAVRの実施により1.9年間の寿命の延長がみられるとした。ぞのため、増分費用対効果（iCER）は５万200ドルだったとした。なお、一般的に米国ではiCERの限界値は５万ドルとされている。

これらの結果から、Matthew R.Reynolds氏は、「AVRの手術がふさわしくない重症大動脈弁狭窄症患者に対し、TAVRは、増加するコストによって有意に寿命の延長が得られる」とし、コストベネフィット効果は、「一般的な心臓血管技術と同様に、受け入れる価値がある」との見解を示した。