一橋大・神岡教授 製薬各社のDX「企業の差が開き始めている」 ”非製薬“DX参入は他産業とコラボも
公開日時 2021/12/07 04:52
一橋大学経営管理研究科の神岡太郎教授(経営管理専攻)は12月6日、IQVIA主催のメディアセミナーで講演し、製薬各社のセールス&マーケティング部門におけるDXの取り組みについて、「先行企業とそうでない企業の差が開き始めている」と強調した。また製薬産業のDX化は「他産業に比べて遅れている」とし、理由として「規制が大きいことを言い訳にしている」と指摘、「ここを受け身にしていてはだめだと思う」と強調した。さらに医療を含むヘルスケア領域のデータ活用は、製薬産業以外の他産業が「みな狙っている」と明かし、このままでは、「仕事のドメインがますます狭くなってくるような気がする」と警鐘を鳴らした。
◎MRがデジタルやチャネルを上手に使いこなすスキル習得は、もはや「共通問題」
神岡教授はこの日の講演で、比較的DXが進んでいる製薬企業6社12人(経営層、アッパーミドル層)に行ったインタビュー調査の結果をベースに、MR活動へのDXの取り組みについて報告した。コロナ禍でMRが医師とのリアル面談が制限されている状況について神岡教授は、「下手な鉄砲数撃てばあたるというのでは駄目だ。Web、メール、リアルなどを組み合わせる。これをうまく使い分けて医師の嗜好にあった形でコミュニケーションしなくてはならない」と強調。MRがデジタルやチャネルを上手に使いこなすスキルの習得は、もはや「共通問題だ」とした。一方で医師側も、「受け身でなく、自ら情報を獲得しようとしている。そのような医師に対しては、Webやチャットボット等のほかに、VR(バーチャルリアリティ)を活用し、仮想空間で薬効や患者の病態などを説明するような企業も出てきた」と報告した。
◎DX先行企業 経営トップのコミットメントやリーダーシップが重要
一方で製薬産業全体のDXについて神岡教授は、チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)を役員として採用するなど、「インタビューした多くの企業は他産業の進んでいる方向に近づいている」と分析、一方で「産業内で差が大きくなってきた」と述べ、2極化の存在に警戒感を表明した。DX先行型製薬企業の特徴にも触れ、デジタルビジョンやデジタル戦略を中期経営計画に明記しているほか、それをサポートする社内チームを設置するなど、経営トップのコミットメントやリーダーシップによるところが大きいとの印象を明かしてくれた。
◎「いま規制があるからやらないという考えではない」
製薬産業のDXに対する課題では、「規制が大きいと言い訳にしている。ここを受け身にしていてはだめだと思う」と強調。製薬産業と並んで規制の強い金融業界は、CDO以外にデータに特化したチーフデータオフィサーを置いていると説明。「これは“守り”でなく、データを先進的に活用しなくてはいけないという環境を社内に作ることを目的としている。金融業界も規制ガチガチだが、それに甘んじないようにするために、“非金融”への参入や取り組みを考えている。このための他産業とのコラボも積極的にやっている」と紹介した。一方で製薬産業に対しては、「いま規制があるからやらないという考えでなく、場合によっては“非製薬”への参入を目指すデジタル企業や食品、通信などの他産業と常にコミュニケーションしておくことも必要になるのではないか」と述べた。
◎社内変革は「ミドル層」がカギ
人材面の課題にも触れた。神岡教授は、「企業が欲しい人材と現状の人材とではギャップがあり、ここがますます大きくなってくる」と指摘。「営業など顧客対応部門は、いまのやり方を繰り返そうとすることがある。よってスキルが必要。マインドセット自体も変えないといけない」と述べ、意識改革を促す必要性を強調した。また、「コロナは特殊でなく、これからも変化が起こっていくという前提で、変わり続けるマインドセットが必要だ」と述べた。
また、「全社員に変革を促すことは難しい。まずは“ミドル層”だ」と述べ、「これからはミドル層が状況に応じてデータを活用するなど、ダイナミックに行うロールモデルにならないといけない。DXをやれと命令しているだけでなく、彼らがフレキシブルに行動できるようにしてあげなくてはならない」と語った。