政府の経済財政諮問会議（議長・安倍晋三首相）は５月31日、骨太方針2019の取りまとめに向けて、焦点の社会保障制度改革について議論した。根本匠厚労相は地域医療構想の実現に向け、データを可視化したうえで、重点支援区域を定め、都道府県と連携してデータ分析や再編統合の方向性について直接助言する方針を明らかにした。2025年の病床必要数と現行の病床数の開きが指摘されるなかで、国の関与を強め、地域での合意形成を促す考え。民間議員も病床再編について診療報酬の加減算導入やアウトカム指標の割合引上げなどを検討すべきと提案した。経済財政運営と改革の基本方針（骨太方針）は６月21日を目途に閣議決定を目指す。

地域医療構想に沿った病床再編については、公立病院の95％、公的医療機関等の98％（病床ベース、19年３月時点）が具体的方針に合意している。ただ、高齢化のピークを迎える2025年の見込み病床数は121万8000床で、必要量を２万7000床上回っているところ。特に、高度急性期・急性期病床は必要量（53.2万床）を17万8000床上回る72万床と見込まれており、公立病院・公的医療機関ともに、急性期からの転換が進んでいない現状がある。

◎民間議員　病床機能転換は「加減算双方向での診療報酬の大胆な見直し」で

この日の諮問会議で、民間議員は「2025年に達成すべき病床数等に沿ったものになっていない」と指摘した。

地域医療構想に沿った病床再編に向けて、①補助金の活用による病床削減、② 加減算双方向での診療報酬の大胆な見直しによる病床機能の転換－を提案した。さらにインセンティブの評価指標について、「アウトカム指標の割合を計画的に引き上げていくべき」と指摘。引き上げのスケジュールを改革工程表に明示し、保険者等の計画的な取り組みを促すべきとした。

インセンティブ評価は政府の進めるデータヘルス計画ともリンクする。データを可視化することで、各地域の取り組み状況をベンチマークすることが可能となる。例えば糖尿病の重症化予防に対する施策の進捗状況を全国データと比較し、アウトカムの良い地域にはインセンティブ評価を行い、遅れている地域には、追加的施策の実施を求めるという発想だ。

◎根本厚労相　重点支援区域を設定「直接助言も」

これに対し、根本厚労相は地域医療構想実現に向けて、19年央に国が都道府県に公立・公的医療機関などの具体的対応方針の検討を要請し、要請対象の医療機関を公表することを明らかにした。具体的には、類似の実績がある医療機関が近接、または診療実績の少ない医療機関を対象に、診療領域・医療機関の再編・統合について地域医療構想調整会議での再協議・同意を要請する。遅くとも20年秋を目途に、再協議・同意を終える。さらに、国が重点的に支援する区域を設定し、都道府県と連携し、データ分析や再編統合の方向性などについて直接助言する。民間病院の再編を促す観点から、病床のダウンサイジング支援などの追加的措置も検討する。

根本厚労相もまた、データの可視化について言及している。同省は全国の医療機関で薬剤情報や特定健診情報を確認できる仕組みを2021年10月以降に稼働させる。あわせて、標準化させた電子カルテの導入を医療情報化支援基金で助成する。一方で、各地域で構築されてきた地域医療情報ネットワークについては、ユースケースが限定的であるものの、島しょ部では有効性を発揮していると説明し、「今後は連携の費用と、その効果のバランスを勘案して、地域医療構想の実現に資するものへの支援に厳格化したい」との考えも示した。

◎政策対話の成果　“攻めの医薬品産業”へ厚労省「創薬支援など環境整備」

厚労省側は“政策対話の成果”についても提示した。製薬業界も５月20日、「革新的医薬品創出のための官民対話」に臨んでいた。この日の資料では、「創薬」について言及。ビッグデータを人工知能（AI）で解析することなどが革新的新薬の創出につながることが期待されるなかで、創薬支援やオープンイノベーションの推進など、我が国で革新的な医薬品が生み出される環境整備に取り組む方針を示した。さらに、アジアの医薬品・医療機器の規制調和に向けた推進など、国際展開に向けた推進などを通じて、“攻めの医薬品産業”への支援を行う姿勢を明確にした。