乳がんで両乳房を切除したアシュリーは麻酔から覚めたとたん焼け付くような激しい痛みにおそわれた。ほとんど堪え難いまでの痛みは、右脇の下の複数のリンパ球を切除されたあたり。痛みの原因についての説明もなく、したがい有効な治療法もわからないまま、しかしラッキーなことに術後5−6週間目から軽減。アシュリーは「ようやく眠れるようになった」 。（医療ジャーナリスト　西村由美子）

両乳房を切除した女性の多くが、原因の特定できない痛みに悩まされているといい、その割合は調査によって20%とも50%とも言われている。痛みだけではない、堪え難い痒みに悩まされる女性も多い。経験者の表現によれば「漆でかぶれた時の何十倍ものひりつくような痒みが日夜間断なく続く」という。


乳房摘出手術後の痛みは一般に術中に神経を傷めることが原因と言われている。だが原因は明らかではない。痛む部位は胸の上部あるいは脇の下がほとんどで、いずれも「焼け付くような痛み」で、時に堪え難い痒みを伴う 。多くは3～6ヶ月続いた後に軽減すると言われているものの、実態は必ずしも明らかではなく、研究が急がれる。

「最大の問題は、患者がこうした術後の痛みや痒みについて事前に告知されていないこと」だと指摘するのはペンシルバニア大学看護学部ペイン・クリニックのPolomano教授である。両乳房を失うという肉体的にも感情的にもトラウマとなる経験に、さらに予期せぬ痛みまでが加わるのでは患者はたまらない。せめて事前にきちんとした説明を、という啓発活動を続けている。