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【ISC2013事後リポート】MR RESCUE、IMS-Ⅲ、SYNTHESIS Expansionの結果を読む

公開日時 2013/03/19 05:00

 

連携体制と診断技術向上が治療成績向上のカギに

 

岐阜大学大学院医学研究科脳神経外科学分野准教授・臨床教授

吉村 紳一氏に聞く

 

t-PA非適応例、無効例への救済治療として脚光を集める血管内治療。「RESCUE-Japan Registry」の結果からは、日本人を対象 に、血管内治療が内頸動脈など近位血管で高い有効性を示すことが確認された。一方で、「MR RESCUE」、「IMS-Ⅲ」、「SYNTHESIS Expansion」の3試験の結果からは、治療開始時間や画像診断など、現在の血管内治療の課題も浮き彫りとなったと言えそうだ。今後は、血管内治療を 行う上で、さらなる患者選択の重要性も指摘されることになりそうだ。岐阜大学大学院医学研究科神経統御学講座脳神経外科学分野准教授・臨床教授の吉村紳一 氏に、試験のインパクトと、今後の血管内治療の方向性について聞いた。

 

――日本での脳卒中急性期の治療の現状について教えてください。

吉村氏 日本では、アルテプラーゼ(rt—PA)が2005年10月に承認されました。承認から7年以上が経過しましたが、虚血性脳卒中全体の5%未満に しか投与されていません。2012年9月に日本脳卒中学会が緊急声明を出し、time window(治療可能時間)がこれまでの3時間から4.5時間に延長しました。今後さらなる症例数の増加も期待されています。
脳卒中急性期の基本的な治療方針は、発症4.5時間以内で、t-PA投与の禁忌事項がなければt-PAの静注療法を行います。禁忌事項に該当した症例や、 発症4.5~8時間以内で神経機能改善の可能性がある症例や、t-PA静注療法で無効だった症例には、Merci Retriever、Penumbra Systemを活用した機械的血栓回収療法を含む血管内治療を行っています。狭窄例には血管形成術、末梢動脈に対しては、ウロキナーゼの動注療法を選択す るなど、症例に応じた治療選択を行っています(図1参照)。


t-PAの有効性は高いのですが、重症例や主幹動脈では効果が低く、無効例も存在します。また、t-PA承認前に実施されたMELT-JAPANで有効性がみられた発症6時間以内の患者を救済できないことへの懸念があり、救済治療が求められていたのです。
血管内治療の施行率は国内でも増加しており、2008年に実施した登録研究RESCUE-Japan Retro(1094例)で、14.3%(t-PA+血管内治療:4.3%、血管内治療のみ:10.0%)から、2010~11年に実施した登録研究 RESCUE-Japan Registry(848例)では、32.8%(t-PA+血管内治療:16.6%、血管内治療のみ:16.2%)にまで増加 しています。
血管内治療を施行された患者さんの中には、t-PA無効例の患者さんが多く含まれています。full doseのt-PA静注後の治療ということで、頭蓋内出血や死亡などの増加が懸念されましたが、RESCUE-Japan Registryの結果からは 頭蓋内出血や死亡を増加させずに、治療効果をあげたことが示されました。
特に、これまでt-PA静注療法では5%程度の有効性しか得られなかった内頸動脈で高い有効性を発揮した点は着目すべき点だと思います。ICA、中大脳動 脈M1、脳底動脈であれば、血管内治療を考慮してもよいと考えています。一方で、M2では現段階では統計学的に有意差が出せる治療とは言えません。ただ、 目の前の患者さんを救おうという臨床医としての努力と、臨床研究によるエビデンスとは違います。患者を見極め、適応症例を選択することも重要だと考えてい ます。

 



――血管内治療が高い効果をあげるために重要なことは何でしょうか?

吉村氏 より早くより確実に開通させることです。そのためには、連携システムの構築が重要です。その方法の1つとして、「ドリップ(Drip:点滴)、シップ(Ship:転送)、リトリーブ(Retrieve:血管内)」があります(図2参照)。まず搬入施設でt-PAの静注療法を行ってもらい(ドリップ)、重症例や主幹動脈に閉塞がある症例は転送してもらい(シップ)、脳血管内治療専門医が血栓を摘出する(リトリーブ)という、t-PA静注療法と血管内治療の連携システムが有用だと考えています。


実際、米国での研究では、健康保険データをレトロスペクティブに解析した結果から、直接搬入に比べ、Drip&Ship実践により、人工呼吸の実施や院内 死亡率の有意な低下や、入院期間の短縮、医療費の低減などがみられており、効果をあげています。尿路感染症や肺炎などの合併症も減少し、死亡率も増加して いないことも示されていることから、t-PA静注療法を行いながら搬送しても安全性の懸念も少ないと考えています。
岐阜県の二次医療圏(岐阜、西濃、中濃、東濃、飛騨)でも、岐阜二次医療圏に血管内治療医が集中しています。全国的にみても、市街地に専門医が偏在しているのが現状ではないでしょうか。
血管内治療を施行するために、愛知県からドクターヘリで搬送されてくるケースもあります。搬送の時間を考えると、血管内治療の適応症例であっても、t-PA静注療法を早く開始することは重要です。
 



治療開始の遅れや再開通率の低さが臨床試験結果に影響


――ISC2013で発表された、「SYNTHESIS Expansion」、「IMS-Ⅲ」、「MR RESCUE」の3試験は、t-PA静注後の血管内治療の施行は、t-PA単独治療に優越性を示すことができませんでした。この理由については、どのよう にお考えですか?

吉村氏
 SYNTHESIS Expansionでは、アンギオグラフィー(MRA/CTA)で血管閉塞を確認せずにランダム化しているという試験デザインの問題があります。血管内治 療群に割りつけられた患者で、血管閉塞が確認されなかった患者には、動注療法を選択するという点が最大のウイークポイントだと思います。RESCUE- Japan Registryでは血管内治療が近位血管で高い有効性を示したことを考えると、最も効果を示さない症例に対し、動注療法を実施してしまった ことになります。今後は日本と同様に、MRAなどにより閉塞を確認した症例に対するランダム化試験の結果に期待したいと思います。
IMS-Ⅲは、超音波カテーテルやMerci Retrieverなどの古いデバイスを使用した症例が多く含まれていた点や、t-PA後に血管内治療を行う際に、127分という長い時間がかかってし まっており、この治療開始の遅れが結果に大きく影響を与えていると考えます。
MR RESCUEは、MRA/CTAにより確認されたペナンブラパターンで患者選択を行っており、私たちが目指す治療に非常に近い試験です。ネガティブな結果 に驚きましたが、この試験で血管内治療と標準療法に有意差がみられなかった一番の原因は、血管内治療群での再開率の低さだと考えています。最近の再開通療 法の指標であるTICI2b(血管の半分以上の領域の灌流)/3(完全再開通)がわずか27%にしか得られていませんでした。私たちの施設では、 TICI2b/3は7割程度を維持しており、この点がネガティブな結果に大きく影響したと考えています。そのほか、穿刺までの平均時間が6.2時間と長い こと、標準治療群でt-PA静注療法が施行された症例があったこと、画像診断時にCTとMRIの両方が用いられていることなどが挙げられます。
新規デバイスとして期待されるステント型血栓回収デバイスのSolitaire FRなどを用いることができれば結果が改善されることにも期待していますが、一方でこの結果は、これまで血管内治療介入の指標としてきた Diffusion/Perfusion mismatchという概念に疑問が投げかけられた結果とも捉えています。Diffusion/Perfusion mismatchは、MRIの灌流画像(PWI)で血流が低下しているものの、拡散強調画像(DWI)では高信号になっていない場所を指します。これま で、Diffusion/Perfusion mismatch陽性例は、治療介入による予後良好のよいマーカーと考えられてきましたが、今回の試験では否定的な結果でした。
発症後期のペナンブラパターンは、側副路が良好に発達しており、虚血耐性がある場所を含みます。このような症例で自然再開通が起きると極めて予後が良くな る可能性があるのです。また非ペナンブラパターンの症例であっても、再開通で予後が良好になった症例もあります。私たちが常識と考えてきた Diffusion/Perfusion mismatchの意義を再度確認する必要があるのではないかと考えています。




ペナンブラに機能評価も加えたさらなる解析を


――この結果を踏まえ、日常臨床で血管内治療を行う患者選択については、何を指標とするのが望ましいのでしょうか?

吉村氏 mismatchにも、①症状とDWIのmismatchを見出す“Clinical diffusion mismatch”②MRAで血管の支配領域とDWI高信号の範囲を比較する“MRA diffusion mismatch”そして③diffusion/perfusion mismatchと3段階ありますが、実臨床での簡便な指標としては、最初の2つが多く用いられていると思います。RESCUE-Japan  Registryの結果からは、MRAにおいてICA、中大脳動脈M1、脳底動脈の閉塞であれば、血管内治療の施行を考慮してもよいと思います。
また前述のようにMR RESCUEの結果から見えたことは、これまで再開通療法の良い適応と考えられてきたdiffusion/perfusion mismatchを有する症例が血管内治療の良い適応とは言えないということです。つまり、再開通療法の適応を考える場合には、ペナンブラの広さや容量だ けでは十分な指標になり得ないかもしれないということです。ペナンブラが解剖学的に重要な領域(運動野、言語野など)にあるかどうかということが重要では ないかと考えています。
また再開通療法の成功はmRS 0-2とされる臨床研究が多いのですが、主幹動脈に閉塞があり、mRSで5(重度の障害)や6(死亡)になる恐れのあった患者さんが、血管内治療を施行す ることで、mRSで3(中等度の障害)や4(中等度から重度の障害)となり、歩けたり話せたりできるようになることは、実際には非常に意味があることと考 えています。最近では臨床試験においてもmRS 0~2ではなく、0~3で評価してもよいのではないかという議論もあります。これまで通り、mRS 0~2をエンドポイントにする場合には、ペナンブラの存在する部位の機能まで考えないと難しいのではないでしょうか。臨床試験の重要性を改めて気付かされ た試験結果でした。
今後は、私たちはRESCUE-2 という試験を実施する予定です。ASIST-JAPANが開発した灌流画像を解析するPMA(perfusion mismatch analyser)を用いた試験を行い、日本発のエビデンスとして発信していきたいと思っています。この試験を通じ、ペナンブラパターンと脳領域の機能と の関連をみて、どのような状態に血管内治療を行うべきかを明確にしたいと思います。



――近くステント型血栓回収デバイスである、Solitaire FR、Trevo Pro、ReViveなどの新規デバイスも日本国内の臨床現場で用いられることになるかと思います。今後の血管内治療への期待を伺えますか?

吉村氏 日本では、Merci Retrieverのサポートカテーテルが承認されなかったために出血合併症がやや多かった印象があります。それでも、我が国では高度屈曲例では控えめに 適応したり、血管損傷を最小限にするような工夫がされているため比較的良好な成績が得られています。さらに2011年にはPenumbra Systemが承認され、治療成績の向上が期待されましたが、大きな進歩とは言いにくい状況です。
しかしSolitaire FRは、SWIFT試験においてMerci Retrieverよりも再開通率が高く出血性合併症も低いことが報告されていますから、その効果が期待されています。欧米ではPenumbra Systemとの併用で、さらに良い治療成績をあげる試みがなされています。
血管内治療の急速な進歩について紹介しましたが、最新のシステムを用いても予後良好となる患者さんは全体の半分程度とされています。やはり脳卒中は予防が 第一です。高血圧や心房細動の管理など、普段の予防的な治療が最も重要だと考えています。            (聞き手:望月英梨)
 

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