厚生労働省は４月13日、世界初の治療用遺伝子組み換えアルブミン製剤として08年に発売したメドウェイ注で承認申請データに改ざんがあったとして、田辺三菱製薬と製造した子会社のバイファに対し業務停止と業務改善を命令したと発表した。

不正の舞台となったバイファは、薬事法に基づく製造管理基準を守らず製造したことなどで、製造業を14日から５月13日まで30日間停止。親会社の田辺三菱には第１種医薬品製造販売業を17日から５月11日まで25日間停止する処分が下った。親会社といえども「不正行為を漫然と見逃し」、薬事法の基準に合わない申請データを提出するに至ったことなど、管理監督する製造販売業者としての薬事法上の責任を重く見た形となった。

業務停止となる第１種医薬品製造販売業は、処方せん医薬品が該当し、田辺三菱は一部製品を除き販売活動ができなくなる（安全管理業務は継続）。同社によると、薬価ベースで3900億円の売上高のうち第１種医薬品は2800億円程度。ただ、代替医薬品がなく、安定供給がなされなくなると現場に混乱が生じることから、関節リウマチ薬レミケードなど７成分（売上高約500億円）が処分対象外となった。

ただ、業務停止中でも、在庫の出荷、卸からの医療機関への納入はでき、在庫も１ヵ月強は確保できていることから供給には支障ないとみている。しかし、今後取引停止や入札参加の停止のおそれにも触れ、今回の処分による業績への影響は５月の決算発表で示すとした。

また医療現場の混乱を避けるため田辺三菱の業務停止開始が17日まで猶予されたため、その間同社は、安定供給に最大限努力することや処分除外品があることなど医療機関への説明に全力を上げる。

改ざん問題は09年３月に発覚。前年の薬害肝炎事件の和解から間もなかったことに加え、世界初の薬剤に絡む問題だけに衝撃が走った。発覚時点で同社は、メドウェイ注５％の承認を返上した。その引き金を引いた不正は、ラットによるアレルギー誘発物質を検出する試験データの改ざん。「陽性」が出て不適合となったにもかかわらず、「陰性」のサンプルを用いて再試験を実施したり「陰性」結果を流用するなどしていた。同剤の有効期限を延長する一変申請でも異常値が出た安定性試験で、正常値が出るように試料を操作していたことから、一変申請も取り下げるに至った。

処分から約１年かかったのも、当初の想定より調査範囲が広がったためだと、同省医薬食品局は説明している。申請に絡む不正が７件に加え、GMP管理に絡むものは10年間で24件に上ることも判明した。不正の指示は、マネジャーやリーダークラスの指示により行われていた。

広範囲に長年にわたり不正が行われた背景について、田辺三菱が同日公表した、弁護士や薬事、薬剤の外部の専門家からなる「社外調査委員会」報告書は、▽血漿分画製剤という特殊なノウハウをもつ部門であったという組織の閉鎖性、▽81年に研究開発に着手し、97年に承認申請にこぎ着けた中で、00年ごろには承認取得を見込んでいたものの、実際は審査当局から追加試験などを求められ、大幅に承認が遅れていることのプレッシャー▽正式データそのものが差し替えられていたこと－－などを指摘した。

製剤開発は、薬害エイズ事件など不祥事が相次いだ旧ミドリ十字（その合併や社名変更などで田辺三菱に組み込まれた。バイファは旧ミドリの製造子会社）出身者を中心に行われ、不正の指示をしたマネジャーはいずれも旧ミドリ出身者だった。

報告書は旧ミドリの「利益重視、安全性軽視の企業姿勢とコンプライアンス意識の希薄さが、１つの重要な要因であったことは否定できない」としつつも、このような会社を合併するにあたり「リスクに対し十分な対策を講じる必要があったにもかかわらず、それが行われなかったことが本件問題につながった」とも指摘し、旧三菱ウェルファーマ、現在の田辺三菱の合併新社の責任も問うた。

田辺三菱は13日に都内で記者会見を開き、土屋裕弘社長（写真左）は、一連の不正行為について「生命に関わる医薬品企業としてあってはならないものであると認識しており、社会の皆さまに対して深くお詫びいたします」と謝罪した。進退については「今後検討したい」と明言しなかった。バイファの藤井武彦社長（写真右）も謝罪し、「職業人としての自覚と基本的な心得をおろそかにしていたと言わざるを得ない」と反省を語った。なお、同剤の25％製剤は、不正はないものの５％製剤の問題のあおりで自主回収されている。承認は残っており、田辺三菱は供給再開を探る。